ロバート・コーエン（チェロ） 録音：1990年 原盤：Collins
ALTO【イギリス輸入盤】
ロバート・コーエンは、1959年ロンドン生まれのチェロ奏者。ウィリアム・プリースに師事し、わずか12歳にしてロイヤル・フェスティヴァル・ホールでデビュー・コンサートを行ったそうです。使用楽器は「ボンジュール」のニックネームを持つ1692年製ストラディヴァリウスで、その豊かな美しい音色は、このアルバムでも充分伝わってきます。2009年にコーエンが来日した時は、NHK交響楽団とエルガーの「チェロ協奏曲」を共演し、その端正で丁寧な演奏ぶりが話題になりました。
この「無伴奏チェロ組曲」も温かく柔らかなチェロの音色が印象的で、滑らかなボーイングと安定したピッチからも優れたテクニックの持ち主であることが分かります。まったく自然体の素直な解釈は中庸の美を尊ぶイギリス人らしく、大げさな抑揚や不自然なテンポの変化は微塵もありません。演奏家の個性をこれほど感じさせない「無伴奏チェロ組曲」も珍しいほどですが、だからといって無味乾燥なお手本的な演奏でもありません。余裕をもって最後まで心地よく聴かせる手腕はやはり大したもの。力みなくサラサラとスムーズに流れていくコーエンの美しい演奏は、バッハの繊細で甘美な音楽をピュアな状態にリセットしてくれているようで、癒し系ともいえるでしょう。濃厚でアクの強い演奏、古楽器による奇抜な演奏、優等生的な巧さだけで押し切る演奏が多いなか、ホッと落ち着かせてくれるコーエンの穏やかで快い演奏は、意外にとても新鮮。
